「本当だとしたら、偶然ですね」
「まったくだ」
「本当に、最悪です」
「大声出さなきゃ、泣いてもいいぞ。そのかわり、元気出せなんて言えないからな。一人で、暗く、これ以上ないくらいじめっとお酒飲んでるから、隣で落ち込むのは構わないぞ」
「でも、隣で泣かれると困るでしょう?」
「それは、困るな。でも、今日は悪いけど……
本当に他人の事なんか構っていられないんだ。僕の人生は、昨日で終わったからね」
「そうですね」
彼は、口元を少しゆがめて笑った。
「おい、同意するな。そんなことないって、否定してくれよ」
「言ったじゃないですか。そんな余裕なんかないって」
沈黙が続いても、お互いの気持ちに干渉せず、傷にさわらぬまま、相手を放っておいた。
彼の方も、自然にこのやり方で応じてくれた。
お互い、自分の事で、精一杯だったのだ。
何かしてくれるより、何もしないでくれる。
それが心地よかった。
がんばれとか、大丈夫とか不用意な言葉を浴びせられるより、黙って横にいてくれるだけでいい。
慰めや励ましの言葉をかけてくれるよりも、高岡さんが隣にいてくれるだけで、気持ちが楽になった。
でも、これでホッとできるわけじゃない。
まだ、乗り越えなきゃいけないことがある。
このまま、誰にも会わずに帰ったら、しっかりした娘を、母の前で演じ続けられなかった。
高岡さんには、すごく感謝した。


