「そうなんだ?気の毒に。それじゃあ、傷口から血が出てそうな傷じゃないか。まだ癒えてないだろう」
「そうですよ……
どうかしましたか?」
予期しないところで、心を裸にされてしまったほどに、私はどうしていいのか分からなくなった。
「わかるんだ。今ほど、そういう気持ちに敏感だったことなんか、なかったからね」
高岡さんは、そう言ってから、後悔するように、首をひねった。
そして、一方的に決めつけてごめんと謝った。
「どういうことですか?」
彼も戸惑いがちに言う。
「僕も、今、君と同じ。傷を負って手当もできないままだから……」
「傷を負ったって、どうしたんです?」
私は驚いて、彼の言葉を繰り返した。
彼は、ウィスキーのグラスを手にしながら言う。
「ずっと、思ってる人がいて、その人に断られたんだ」
それには触れずに、さりげなく話をそらした。
「それは、お気の毒に」
私達は二人で、笑い合った。


