「簡単に言うと、本気で好きだと思える人がいたんだけど、その人には、別に女の人がいた。
ただそれだけ。うんざりするほど、どこにでもよくある話」
そんな話が、まさか自分の身に降りかかってくるなんて思わなかった。
「それって、最近の事か?」
しばらく考えてから、高岡さんが言った。
適当に受け流してくれるのかと思ったのに、彼は違ってた。
「ええ、そうですど……」
心から、同情するよという目で私を見つめる。
「それは、気の毒に。何といっていいのか……」
私は、困惑した。
私が、触れられたくない、サラッと通り過ぎて欲しいことを、立ち止まって追求しないでください。
自分の心情をよくあるなんて、どこにでもある話だって装ったのは、本当の自分が受けた傷を知られたくないから。
だから、そんな、心から同情するような顔、本当に止めてください。
哀れみの表情をされると、取り繕った顔が保てなくなって素の自分がでてしまう。
「ありがとう。もう何でもない」
何でも、いいことなんてないよ。
荻野君が私のことが好きでいてくれて、彼と一緒にいられると思った現実が、指から零れ落ちて、消えてなくなってしまったのだ。
実現しそうだった夢が、消えてなくなる。
ほんの一瞬だけだったとしても、幸せな夢を味わった分、その反動の夢を失った失望が辛く跳ね返ってくる。


