「多分、今、僕は、君と同じ精神状態にいて、人に話しかける気力はないんだけど、一人でいたくないっていう状態」高岡さんの口元が、少し緩んだ。
「高岡さん、それ、すごくわかる」
彼の言葉に、私も大きく頷く。
「本当?だとすると、君も相当精神的に参ってるのかな」
高岡さんも、大げさにリアクションをして、場を和ませようとしてくれる。
「ええ、そうなの。人生で最悪なことがあって、どう頑張っても笑えないの」
「そうか。人生で最悪なことか……」
「そんな状態でも、家にまっすぐ帰れない」
かれも、大きく頷く。
そういえば、高岡さんも週末は、何かと用事を言いつけられて、実家で過ごしてると言っていた。
「そうだよな。母親の前で取り繕って笑ってるくらいなら、ここでしんみり、暗い顔して酒でも飲んでいた方がいい。でも、今日みたいな日は、一人でいたくないんだ」
「本当に」
「すごく、複雑だな」
「まったくです」
「本当に?話を合わせてるんじゃなくて?」
「はい。残念ながら」
高岡さんが、グラスを傾けて乾杯のポーズをとる。
私も、それに応える。


