二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

駅から少し歩いたところにある店に案内してもらった。

「ここなら、静かに飲めるし、万が一お腹が空いても料理が頼める」

「それなら、理想的ですね」

「よかった」

少し照明を落とした店内、黒が基調の落ち着いた店で奥のテーブル席につけば、周りの人のことはほとんど気にならない。

「何でもある。ワインでもビールでも、好きなもの頼めばいい」
高岡さんに、店のメニューを見せてもらった。

「はい。今日は、なんとなく甘いお酒が飲みたいな」

私は、ビールもワインも断って、サングリアを頼んだ。

料理も、高岡さんがおつまみ程度に頼んだものも、それほど口にしたいとは思わなかったけれど、この甘いお酒だけは、喉を通っていった。




「静かだね」

もう、何分も、グラスを握りしめたままでいた。


「ごめんなさい、いろいろあって、笑うことが出来なくて」

隣から、ふーっていう大きなため息が聞こえた。


「それを聞いて、多分、僕の方が安心してる。奇遇だね。君とまったく同じで、人に話しかける気力がなかったんだ。
だから、目の前で思いつめたように、黙ってグラスを握りしめてる人を見てると、安心する」


「何ですか、それ」