「どんな子だった?かわいい子だろ?結構、若いのかなって思ったけど。一緒にいただろ?」
頭が真っ白になって、足がふらついて立っているのもやっとだった。
「ええ」
ようやく、変に思われないように返事をする。
「驚いたよな。女の子のために会社休むって。どんな子だろうって興味持ってさ」
「新井さん、そんなことのために私を行かせたんですか?」
「仕事のこともあったし、もちろん、それだけじゃないけど。何、迷惑だった?
ごめん、だって、俺そういうの苦手だし、主任と課長、仲良いいだろ?
課長の私生活、興味あるのかなって思って」
「そう……」私は、手をついて体を支えた。
「ん?何かあった?」
「いいえ」
「いいよな。そんなに好きな子がいて」
「そうね」
「悪いけど、そういうことだから、この件お願いするわ。私は、ノータッチでいい?」
「ああ、いいけど。大丈夫?疲れてる?」
「ちょっとね。張り切りすぎちゃったのかな」
目頭を押さえ、疲れたみたいに装ったけど、本当は泣きそうだった。
課長にそういう人がいたって、知らなかったのは私だけだったのかな。
このこと、みんな知ってたのかな。
「少し、課長に仕事振るといいよ。課長のお陰で、こっちにだいぶしわ寄せ来たもんな」
「ん……」
新井さんの余計な気遣いのせいで、見なくてもいいもの見せられたんだ。
こんなこと、知らなければよかったのに。
日が経つにつれて、食欲も元気もなくなっていた。
力を入れようとすればするほど、上手く行かない。
なけなしの気力を振り絞っても、空回りして前に進まない。
食べるっていうことも、今の私には難しい。
お昼に、サンドウィッチ一個も口に入れるのにひどく時間がかかるのだ。
幸いなことに、営業職でオフィスで食事をすることが少なかったから、離れた場所でこっそり少量の食事を済ませても、誰にも気づかれないで過ごせていた。
朝は、母が作った朝食を食べ、そのまま消化しないうちに昼が来る。
ほとんど食べないで、サンドウィッチを見つめたまま、時間だけが過ぎていく。
夕食は仕事場で軽く食べて来たからと嘘をついて、ほんの少し母の料理をつまんだだけで、もうお腹いっぱいと断った。
本当は、食事どころではなかった。
新井さんが、課長の様子を見に行くように頼んだおかげで、目が覚めた。
あんなふうにじゃなくて、直接課長から言われていたら。
信じなかっただろうな。
彩香さんのためになら、何もかも投げ出して駆けつけるんだ。
彼女は特別で、私が入り込む余地はない。
課長が彩香さんを放り出して、彼が私のところに来ることはないって理解できる。


