指に触れられた感覚が、まだしっかりと残っている。
ドキドキしている、というんじゃない。
磁石が、同じ極に反発するように、彼の指をはじき返してしまった。
感じ悪いと思っただろうな。
でも、心で感じるより先に、体が異物を弾くように、彼の存在に反応してしまう。
まずかった。謝らなきゃ。
「どうかした?」
新井さんが、説明を中断して私の顔をのぞくようにして見ている。
「ごめんなさい。集中してなくて」
彼は、いいよ、といって聞き逃した部分の説明をもう一度してくれた。
質問しておいて、答えてくれてる新井さんの顔を見ながら、他のこと考えるなんて。
「多分、森沢さんの言う通り、原料が限定されてても。使う薬品や製造方法によっても大きな差が出てくる。だから、そのあたりの的を絞りたかったんじゃないかな」
「うん」
「大丈夫か?」本当にどうかしてる。
「大丈夫。理解できてるから」
「いいよ、課長には直接話しとく。主任が間に入るより、打ち合わせに出てた俺が課長と直接話した方が早いからね」
新井さんは、笑って資料を引き取ってくれた。
「すみません。そうしていただけると、助かります」
いったい、何やってるんだろう。
「でさ、行ってみてどうだった?」
「行ってみて?」
「課長のところ」
触れられたくないことに、いきなり触れられて心の準備ができていなかった。
「居ましたよ。ちゃんと」
適当に答えた。
「やっぱり?」新井さんは、大きい声で笑った。
「やっぱりって、会いに行ったんだから、いるに決まってるじゃないですか」


