「お疲れさまでした」
最後に話を聞いた、梨花ちゃんが会議室を出て行った。
少しの間……
彼は黙って、こっちを見ている。
立ち上がって、こっちに向かって歩いてくる。
「葉子……」
ドアノブを持っていた手を取られて、そのままドアに体ごと押し付けられた。
「ちょっと、荻野君……」
彼は、キスで唇を塞いで言葉を奪った。
「お願い、何も言わないで。ほんの少しだけこのままでいさせて」
長いキスが終わると、彼は、私を胸に抱きしめた。
「荻野君」
「こうしているのが、俺の本当にしたいこと。
君を手に入れることが俺の夢。
でも、今の俺には、どうしていいのか分からない。こんな事しか言えなくてごめん」
「ごめんて、謝るくらいなら、どうして、気持ちを打ち明けたりしたの?」
「嬉しかったから……
生まれて初めて、生きてるって感じたから。でも、それは君の言う通り、間違ってたかもしれない」
「私は、仕事の上では、ちゃんとあなたを支えます。だから、こんなこと止めてください。もう、二度としないで」
「わかってる。わかってるから。もうしない。これで終わりにする」
優しい腕、逞しい胸。
どれも恋しくて待ち望んでると思ってた。
でも、何時間か前に、同じように別の人を抱きしめていたのかと思うと、今度は逆に、思いが深かった分、嫌悪感として跳ね返って来た。
私は、彼の固い胸を冷たく突き放した。
「止めてください。もう、あなたは、私の上司でしかありません」


