家にまっすぐ帰るなんてできなかった。
母にこんな顔を見られたら、何かあったと思って私から話を聞き出そうとするだろう。
あの人は元教師だったから、人の話を聞き出すのが、異常にうまいのだ。
私は、由利子叔母の携帯に電話をした。
支離滅裂な内容だったけど、叔母はすぐに返事をくれた。
まっすぐ、叔母さんの家に来なさい。
短かったけど、一言だけそう言った。
どこをどう歩いて、たどり着いたのか分からなかったけど、慣れた道だったから足が自然に向いた。
叔母の家は、もともと祖父母が住んでいた家だ。
母と叔母の実家だったけれど、叔母が離婚をして祖父母と住むようになった。
その、祖父母も亡くなって、今住んでいるのは、叔母一人きりだ。
なぜか、目の前に叔母がいる。
なぜか、八方ふさがりでどうしようもなくても、この人の言う通りにしていれば、次の朝にはどうにかなっていた。
「まず、座りなさいよ。幽霊みたいに突っ立ってないで」
「いっそのこと、幽霊にでもなりたい」
「まず、落ち着きなさいって」
「どうやったら、落ち着けるの?どうやったら息ができるのか、分からない」
「深呼吸して、何も考えないで。何もしなくていいから、ただ、そこに座ってなさい」
叔母の家には、古くからあるコタツが存在する。
多分、私が小さい時からあるのではないかと思われる。
コタツに、しびれて痛みを感じなくなった足を突っ込んで、少しずつ熱を感じていくのを待つ。
「由利子叔母……信じてた人に裏切られるって、こんなつらいことだって思わなかった」
「感情に任せておきなさい、無理に話さなくていいから」
「うん……」
死ぬほどつらい。
私は、そう言わないように、何度もその言葉を飲み込んだ。