二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

「ちょっと待て」

一刻も早く部屋から出たかった私は、彼が着替えて来るっていうのも聞かずに外に出た。


来た順番を戻ればいいし、確認したいことは、新井さんに聞いてもらえばいいい。


そうして、二度と来なければいい。


後ろから、私の名前を呼ぶ声がして無視して歩いていると、今度は腕をつかまれた。

「待てって、言ってるじゃないか」


「道ならわかってます。やっぱり、送ってなんかいただかなくて結構です」


「ちょっと待って」
彼は、私を止めるために両腕をつかんで、前に立ちはだかった。


「部屋で見たことについてなら、何の説明もいりません」


「言い訳はしない。あの子は、俺にとってすごく大事な子だ。喘息の発作で倒れて昨日まで入院してた。まだ、一人にしておけないんだ」

本当に、くそ真面目なんだから。

適当に、その場を取り繕って嘘が付けないんだから。


「じゃあ、ずっと付き添っていてあげてください」

だから、私だって正直にいうしかないじゃないの。


「あの子は、とても大切な子だけど、君に対する感情と全然別なんだ。分かってもらえないかもしれないけど。工場で言ったことは嘘じゃない」

荻野君、訳が分からないよ。
どうやって、そんな話、信じたらいいの?

「聞かなかった事にします。ですから、課長もそのことは忘れてください」


「忘れるなんてできない。気持ちを偽るなんてできないから」


「でも、課長が選んだのは、あの子でしょう?」