二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

「わあ、それ、いただいていいんですか?」
手に持っている、紙袋を見ながら彼女が言う。

「どうぞ」
彼女は、私の手を持って、早く上がってくださいと、私を中に招き入れる。


彼女は、さっと私の前で屈むと、立てかけてあったスリッパ立てから、ウールのもこっとしたスリッパを出した。

もう、この時点で後退りして帰ろうと思った。



でも、後々のことを考えて引きずらないように、ちゃんとこの目で見ておこうと思った。
この子が彼が言っていた、彩香ちゃんだ。

長い真っすぐな髪をツインテールにして、渡したケーキの箱の包み紙を丁寧にはがしている。

箱を開けると、切り分けて食べる輪になった形のバームクーヘンが見えた。


「すごい美味しそう。すぐに切り分けますね。ちょうどよかった。お茶の時間にしようかと思ってたんです」
何て可愛い笑顔で、彼に笑いかけるんだろう。


「いいって。俺やるから」

荻野君が立ち上がったけど、彩香さんは大丈夫って言いながら、薬缶をコンロに置いた。


荻野君は、何とも言えない顔で私のことを見つめていた。

ほんの数分だったけど、過去のいろんなことを思い出した。

最初に、契約が取れて二人で祝ったこと。

上手く行かない時、励ましてあげたこと。



「伸二君、ケーキ皿どこだっけ?」

彼女の言葉が、私を現実に引き戻した。


「ああ、それなら棚の一番上の……ちょっと待ってろ、俺がとるから」

私は、いたたまれなくなって彩香さんに、用事があって長居ができないと言った。


立ち上がった彼に、私は伝える。
「荻野課長?駅まで送ってくださいますか?」

そう言うと、荷物を持って、私は立ち上がった。