水曜日の朝になった。
荻野君は、あれからずっと会社を休んだままだった。
私は朝、起きてすぐ彼からの連絡が来ていないか、携帯を見てしまう癖がついていた。
食事中も携帯を気にしている私に、母のお小言もきつくなってきた。
電車の中でも、オフィスに着いても、彼からの連絡を待ち続けている。
仕事の話だけして、すぐに切ればいい。
でも、聞かずに済ませられるだろうか。
向こうから、話してきた場合は?
急に、聞きたくないからと言って切ってしまうことはできない。
先に指示されていた内容も、指示通りことが進み、そろそろ課長の判断を仰がなければならない。
荻野君の指示は届いているし、作業に支障がきたしていなくても、赴任したばかりの管理職が休んでいるのは、あまりいいことではない。
どうしたものかと考えていたところに、新井さんが声をかけてきた。
「あの、ちょっとよろしいですか?」
彼は、遠慮がちに、私を呼び止めた。
そして、わざわざこんなところまで呼び出してすみませんと言って、フロアの隅にある喫茶コーナーまで私を連れて来た。
「ええ、もちろん」


