「なあに、ニヤニヤ笑ってるんですか」
いつの間にか、荻野君が戻って私のすぐ近くにいる。
「いろいろね。思いだしたことがあって」
当時のことを思い出すと、どうしても口元がゆるむ。
「他言無用ですよ。俺の地位を貶めたいってことなら受けて立ちますけど」
わざと、内緒話をするみたいに、私の耳元で言う。
「こら、止めてよ。もうあの時と同じじゃないのよ。仲が良すぎると思われるのもやりにくいんだから」あんた、自分の立場考えなよとつぶやく。
「じゃあ、俺の顔見てニヤニヤするのやめてください」
拗ねたように言う。
なに?気に障っちゃったのかな。
「いいじゃないの?たまあにあんたの顔見て、くすくす笑うくらい」
私は、肘で突っつきながら言う。
「たまあに熱い視線送ってくれるならいいですけど、笑うのは本当に止めてください」
真剣に言い返してくる彼。
「わかった。笑わない」
ヤダ。こんなことで向きになってる。可愛いって、頭を撫でてあげたい。
「ダメです。目が笑ってます」


