「交際を続けるって……」
今さっき、結婚する意思なんかないって、はっきり言ったじゃないの。
私は、言葉が続けられないまま、彼を見つめている。
彼は、軽く謝るようなポーズをすると、楽しそうに笑いかけて来た。
「すみません。これだけじゃ、意味が分からないですよね。じつは、僕、今月の末にもお見合いが入っていて、うちの母親にはほとほと困ってるんです。
このままだと、結婚相手を決めるまでお見合いさせられそうなんです」
「それは、大変ですね」
何となく、少しだけ話が見えて来た。
「それで、葉子さんなら僕の窮状を救ってくれるのではないかと……」
「えっと、何を考えているんです?」
私は、それほど切羽詰まってませんし、そんなめんどくさい事、絶対に嫌です。
「実は、お見合いをした後、このまま、交際を続けたいと伝えて欲しいのです」
はあ?なに考えてるんですか?
はしたないから声には出さないけど。
「あの、結婚するって伝えるんですか?」
私は、首を振って無理ですってジェスチャーで示す。絶対に無理だって。
「はい。出来ればはっきりと伝えていただけるとありがたいです」
なに言ってんだ、この人。
そんなこと言ったら、母と敏子さんが最強のタッグを組んで、すぐにでも結婚させようとするじゃないか。
「あの、ちょっと待ってください。そんなことうちの母に言ったら、真に受けて式場の手配しちゃいそうですよ」
「さすがに、そうなる前には何とかします。お願いします。助けると思って」
知的な男性に頭を下げられて、手まで握られてしまった。
「高岡さん、ちょっと、待ってください。頭下げるなんて止めてください」
「他に方法が見つからないんです。毎月お見合いばかりさせられて本当に大変なんです」
「それは、私も同情しますけど……」
「でなきゃ、僕は、一目で葉子さんが気に入って、彼女じゃないと、一生結婚したくないって母に伝えますよ」
何てこと!
「脅すきですか?あなたは……」
「だから、言ってるじゃないか。本気で困ってるって」


