「いいえ。別に。私はそういう希望を持っていません」
「そうですか」彼は、穏やかに頷いた。
彼と目があった時、思い切って打ち明けた。
「あの、このお話、お断りしますということならそうしてください。もちろん、私の方からそうお伝えしてもいいですけど」
彼は、ちょっと待ってと私の話を遮った。
「いえ。あの。お願いがあるとは、そのことではありません。葉子さん、あなたが言いかけたのとまったく逆です。僕は、あなたに、この見合いのお話、受けていただきたいんです」
椅子から転げ落ちそうになった。
彼がなぜそんなことを言いだすのか、理由が分からない。
「ええっ?すみません、それ、どういうことですか?」
コーヒーをこぼしそうになってしまって、慌ててテーブルに置いた。
涼しげに笑う彼の顔を見ながら、私は、ぐるぐる考えを巡らせていた。
そうして、彼が言い出したお願いのことを何度も頭の中で繰り返した。
「すみません。葉子さん、折り入ってお願いがあります。僕との交際、しばらく続けて欲しいんです」