「えっと……あの」

「どうかしましたか?」

私と彼は、ラウンジでそのままコーヒーを頼んだ。

高岡さんは、コーヒーカップを手にして知的な穏やかな笑みを浮かべている。


そうだった。まず、最初に、言っておかなければ。

「あの……」
彼は、私を見つめると、どんなことでも話して大丈夫ですよと、聞く姿勢を取ってくれた。

それで勇気が出た。

「あの……今日は、私、こんな姿をしていますが、この話、えっと、お見合いの事ですが……こんなに前のめりになっているわけじゃなくて、えっと……」

高岡さんは、興味を持ったのか、身を乗り出してきた。

「仕方なく、行きなさいと言われて来たと?」


私ったら、なに言ってんだろう。
「ごめんなさい。そんな言い方したら、失礼ですよね」



彼は、緊張をほぐすように、もう一度笑いかけた。

「いいえ。そんなことありませんよ」


「そうですか。よかったです」

私は、ほっとして高岡さんに微笑みかけた。
よかった。分かってくれたかな。

「なるほど。あなたは、この席にやって来たのは自分の意思ではなく、人に言われたからだっていうことですか?」そう言い終えると、彼の表情が厳しくなった。


「高岡さん、やっぱり私、失礼なこと言ってしまいました。すみません」軽く頭を下げる。

彼は、私のために、もう一度穏やかに笑って見せてくれた。

「いいですよ。そんなこと。全然気になんかしてませんから。葉子さんも顔を上げて。僕の方もそれを聞いて安心しました。何しろ母の旧友の娘さんなんて言われて、簡単には断れませんでしたから」

顔を上げると、彼は、私を見ながら楽しそうに微笑んでいる。

「そうなんです。よかった。でしたら、少し時間をつぶして帰りましょうか」

「そうですね。でも、一つお願いしてもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんです。何でもどうぞ」