「いいお着物ですねえ」
そう言われて、いっそう顔がほころばせる母。
母が嬉しそうにしているのを久しぶりに見た。
叔母と楽しそうに、お見合いについて話をしている。
面と向かって、言わなかったけど。
期待してたんだろうな、ずっと。
相手に会ったら、すぐにでもお断りしようなんて、ますます出来ないな。
「お待たせしました」
そうこうしているうちに、敏子さんと呼ばれている女性とその息子さんが、ホテルのロビーにやって来た。
「まあ、よく来てくださったわね」
母と敏子さんは、私たちのことを忘れてしまったように話に夢中になる。
母親より、頭1つ高い男性が私の方を向いて、微笑んだ。
敏子さんは、私にも簡単に挨拶をすると、自分の息子にもそうするように促した。
彼は、すっと私の前に立った。
「初めまして。高岡誠と申します」
軽く礼をして、お互いの顔を見る。
これが、お見合いなんだって、私は変ことを考えてる。
「こちらこそ初めまして。森沢葉子です」
高岡さんは、背筋をピンと伸ばして私をまっすぐ見ている。


