二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~



ほとんど眠れずに待ち続けた連絡は、ホテルに着いてもまったく来ていなかった。

髪をセットし、携帯をそばに置きながら、半分寝かけてしまった。

寝不足と気力不足で、着付けのおば様に「きちっとして!」と何度も叱られた。


こっちからかけてみようかな。掛けても大丈夫かな。

でも、思いのほか病状が深刻で、そんなときに電話をしてしまっていいのか判断がつかなかった。

「さあ、どうですか?」
着付けのおば様に鏡の前に立つように言われて、言う通り鏡の前に立ってみる。

「姉さん、やっぱりきれいね。この柄」

両方の袖を広げると、淡い水色をした生地に、白いむら雲を背景にして、手染めの微妙な濃淡で描かれた、桜、梅が見える。その横に、鶴が大きく羽を広げている。

細工も豪奢だった。
金糸で縫い取られた菊、黒地に金箔の小花模様、螺鈿の木の葉、鹿の子ちりめん。
これを決めたのは、全部母だ。