適当にお茶を濁すとか、曖昧にしたままにしておくとか、相手に気を持たせるようなことは、一切しない人だった。
聞かれたことは、すぐに調べて確認したし、出来るだけ顧客の意に沿うように、粘り強くタフな交渉をして、相手の信頼を得ていくタイプだった。
『いいのに、そこまでしなくても』
と私が止めても、
『いえ、俺、このままだと、いつまでも葉子さんに勝てないじゃないですか?』
『私に勝つ?心配しなくても、自然に抜いて行くって。私、出世なんか望んでないし。荻野君、自分から目立たなくたって期待されてるし』
『葉子さんって本当は、誰か、もう当てにしてる人でもいるんですか?』
『ん?何の事?』
当てにしてる人ねえ、何が言いたかったんだろう。
考え事してたら、途中で買い物を忘れて帰ってきてしまったらしい。
気が付いたら、私は家の前で立っていた。
母が待ちきれず玄関までやって来た。
「どうだった?いいものあった?」
母に言われて、洋服を見に行くことになっていたのを思い出した。
しまった。すっかり忘れてた。
「葉子!久しぶりね」
母の後ろから、由利子叔母が顔を出していた。
「叔母さん?どうしたの?」
由利子叔母に会うのは、久しぶりだった。
叔母も仕事を持っていて、お互い時間がなく、私が学生だった頃のように会わなくなっていた。
私は、小さい頃からこの叔母と話が合って、母にも言えないことを叔母に相談していた。
最近は、そんなこともなくなっていたけど。
「可愛い姪が明日お見合いだって聞いたから、ちょっと寄ってみたのよ」
面白そうな展開になりそうだと、叔母は、目を輝かせている。


