私は、誰もいない廊下を一人で歩いて行った。
さっき、所長がいた研究室のドアをたたいた。
「どうかしたの?」
研究室をのぞくと、真っ先に加藤さんと呼ばれていた男性が私に話しかけてきた。
荻野君は、ここに立ち寄って送ってもらえるように頼んで言ってくれたのだろう。
詳しいことは、伝えてないだろうけど、彼らが心配しないようにしなければと思った。
「荻野君、急に帰らなければいけない用事が出来たみたいで」
「血相変えて飛んで行ったけど」
荻野君の行動が、あまりにも彼らしくないと思ったんだろう。
「多分、今頃病院に向かってると思います。お騒がせしてすみませんでした」
私は、頭を下げた。
「はい。出来ればバスで駅まで行けないかと」
「んん……バスねえ」所長がうなった。
「えっとね、バスは夕方までないんだ。だから俺が送っていくよ」
「いえ、そんな」送ってもらうだなんて。
「いいよ。あいつに頼まれたし」
「えっと」一応、気にしてはくれてたんだ。
「そんなに、気にしないでよ。ついでに買い物の用事もあるから、どうせ車を出さなきゃならない」
「すみません。では、お言葉に甘えます」


