広い、誰もいない食堂でしばらくお互い見つめあっていた。
私は、ぼんやり荻野君に、明日のこと聞いてみようと思っていた。
もし、彼が行かないで欲しいって言ってくれたら、母に頼んでお断りしよう。
ホテルに出向いてお断りするよりも、先に相手に伝えた方がいいだろう。
私には、もう、まったくその気がなくなってしまった。
「電話、鳴ってるよ」
「ああ、本当だ。ごめん、ちょっと失礼する」
仕事用に持ち歩いてる携帯じゃない方だ。
いつも会社で鳴っている着信音と違う。
一瞬、彼はすぐに電話を取るのをためらった気がした。
「どうかしたのか?」
緊迫した声だった。
普通じゃないと思った。
普段、大きな声を出さない人が周りも気にせず、声を出している。
彼の表情が、だんだん厳しくなってる。
電話の相手は事情を説明できないのか、要領を得ない荻野君が、苛ついて声を荒げている。
彼の顔がみるみる緊迫してくる。
「彩香?なに、おい?どうしたの?苦しいのか?」
私は、荻野君の方を向いた。
何かあったのかな。


