二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~


「お腹減ってる?」
荻野君が時計を見ながら言う。

壁に掛けられた時計は、すでに12時を過ぎていた。

「そうだね」私も荻野君に向かって頷いた。

「施設内に食堂があるから、そこで何か食べていこう」

荻野君が、迷わず歩き出した。

この辺りにレストランや食堂があまりなく、工場内で食べた方がいいからと歩きながら言う。

「はい」

工場には、セルフサービスのカフェテリアのような食堂がある。
私と荻野君は、二人で食事をすることにした。

メニューは、それほど種類がなかった。
日替わりの魚のフライ定食を、二人で注文した。


「この工場に何度も来てたの?」

荻野君が別の部署に移ってから、どうして過ごしてたのかなと思った。


荻野君は、ガッツリ豪快に食べる。

よく食べるわりに、体つきもお腹に肉もついていないように見える。
羨ましい限りだ。


「製品の知識を得るのに、ここが一番わかりやすかったから」
そうやって頑張ってたんだね。

知らない人に、運がいいとか、口が上手いとか、言われてるけど。
彼が、ずっと努力を怠らないようにしてきたことは、一緒に仕事をしてきた人間がよく知っている。

「そうだよね」
彼は、出来るだけ人に頼らないように頑張っていた。
時々、それがまどろっこしいなと思ったりするけど。

先輩に全部聞いて覚えるっていうの苦手だったもんね。


彼は新人の頃から、食べ方は男の子らしいんだけど、礼儀正しく食事をする姿は、見ていて気持ちよかった。

それは変わっていない。



「あああ!もう……」
荻野君が、急に叫び出した。


「どうしたの?」
急にどうしたのよ。


「一つ、お願いがあるんだけど」

そうやって真剣な眼差しでじっと見つめられると、緊張しちゃう。

「なに?」