二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

「ゆっくりして行けよ」
所長が私たち二人に言う。

「はい」

「研究中の繊維、実験結果をまとめた資料を用意しておいたから、持っていきなさい」

所長が、ファイルにまとめた資料を渡してくれた。

「いつもありがとうございます」
荻野君がお礼を言う。

「よかったな。この人だろ?長年の想いの人に受け入れてもらえて」

「どうしてわかるんですか?」
驚いて彼は、私の顔を見た。

「こいつは、仕事でも何でも、これと決めた物以外、まったく興味を持たないからな」

「おっさん、すごいな。ちゃんと俺の性格まで見抜いてるんだ」


「そのくらい、普通だぞ。でも、面白いやつだったな。つまらん、お堅いエリートだと思ってたら、ここに来て早々、職場の先輩に振られたって、酒飲んで大騒ぎしてたもんな」


「いつの話だよ、それ」

「たった数年前だろ?」

「もう、いいよ。そのくらいにしてくれ。さて、本題に入るから」


私は、荻野君から、これから第三課で営業をしていく商品が、どういうもので、どのように作られていくのか学んだ。

石油等の化学原料由来の素材ではないから、使用後廃棄しても土中や水中の微生物の栄養源として利用されるとか。

製品は、最終的に水と炭酸ガスに分解されるエコロジカルな繊維であるとか。

ポリエステル等と同じ設備が使用可能だということ。
融点(約170℃)以下での温度管理が非常に重要であるなど。