「はい」
「ハイって……」
「嬉しそうな顔して。今日は?どうしたんだ?お前は、本当に彼女を見せに来たのかな」
「一応、工場の様子も見に来ましたよ」
「見ての通りだ。特に変わりなく、作業は順調だ」
「しばらく見ないうちに、だいぶ形になってきましたね」
「そうだろう?」田島所長が、私が話についていけないので、視線で荻野君に伝えた。
話を理解していない私に、荻野君が説明をしてくれた。
「ポリ乳酸繊維って言ってね。トウモロコシを原料とした繊維で、「ポリ乳酸」って呼ばれてるんだ。
溶融紡糸つまり、従来の設備で製造されるナイロン、ポリエステル等と同じ設備が使用可能だ。
だから、この工場でも大規模な工事をしなくても、新しい商品を生産できるようになる」
「ああ。やっとここまで来たんだ」
荻野君が、窓から見える工事を眺めて言う。
「施設等の工事の方は順調だよ」
所長が詳しい内容を荻野君に説明している。
「ああ」
製造工程の具体的な内容は、資料を見たものの少しも頭に残っていない。
「律儀な奴だな。電話くれれば何でも答えてやるのに」
所長は、嬉しそうに言いう。
「ちょっと、みんなの顔が見たかったから」
所長は、ニヤニヤ笑って言う。
「だいたい、用もないのに工場なんかに女の子連れて来るのは、デートにまともに誘えない、ここで働いてる不器用な奴だけだとばかり思ってたけどな」
「だって、仕事っていう以外、誘って断られたら目も当てられないし」
そうなの?
いつも、軽い口調で断られたって気にしないっていう風に見えるのに。
「いいね。これからってカップルは」
「うらやましいでしょう?」
「本当にな」


