二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

私達は、長い時間かかって受付を済ませ工場内の研究所に入った。

この工場には、化学繊維の研究所が併設されている。

土曜日の工場の稼働は不定期で、今日は止まってるラインが多い。
荻野君がそう言ってた。

建物の周りには人影もなく、工場の機械の音以外はしんとしている。

研究棟と書かれたプレハブのような建物に入る。

荻野君がすみませんと言って、受付の奥にある事務所の扉をあけ、顔をのぞかせると、中にいた男性の職員が顔を上げた。

声をかけた相手の顔が、荻野君の顔を見て、ぱあっと明るくなる。


「あれ?珍しい人がいるじゃないか」


「珍しくないだろう。二カ月ぶりくらい」

手に持っていた書類をデスクの上に置いて、男性はすぐにこっちに近づいてきた。

彼は、私と荻野君を交互に見ると嬉しそうに笑って言った。



「忙しいって、そういう意味だったのか?お前」

荻野君は、そう言われて照れながらも、つないだ手を離そうとしない。
「加藤さん、なに言ってんですか」

「しょうがない奴だなあ。まあ、しっかり捕まえておけよ」
加藤さんと言われた作業服の男性は、私にも笑いかけた。

「所長なら研究室にいるぞ」

「はい」

「きれいな彼女だな。一応、俺も独身なんだけどな」

加藤さんは、私と彼が手を繋いでる辺りをニヤニヤしながら見ている。

「えっと、ごめんなさい。初めまして、私は……」
ぼんやりしてて挨拶を忘れるなんて。
何してるんだろう。

荻野君が割って入った。
「こんなところで、名刺なんか配らなくていいって。必要なら、連絡は俺からするから」

「でも……」

「連絡先知らないと、彼女の質問に答えられないぞ」

「教えるわけないだろ」