ここは都会から離れた、郊外にある繊維工場だ。

見晴らしのいい広い敷地に、大きな工場の施設が並んでいる。

うちの会社は、主力商品であるポリエステル繊維をこの工場で製造している。

ここでは、繊維の原料となるポリエステルのチップから、ポリエステルの繊維を作り出している。

昔は、日本も世界有数のポリエステル生産国だったけど、今は中国などに押されて生産量が減ってしまった。

会社の方も、生き残りをかけて、商品の研究を重ねて、新しい付加価値のある製品を開発してきた。

今、建設中の工場がそのうちの一つだ。


「荻野君、あれかな?」

私は、シートで覆われた建設中の建物を指した。

「そうだよ。あれがバイオポリエステル系の工場だ」

彼は、そんなのどうでもいいと言わんばかりに、背中に腕を回し軽く引き寄せる。

「ちょっとこっちに来て」

彼は、工場内の人目に付かない、建物の陰になる場所に引き寄せる。


「荻野君……」

「さっきの事、本当にあった事なのか?夢なのかな。このままじっとしてて。こうして抱きしめないと実感がわかない」


「どこにも行かないから。ねえ、本当に誰か来たらどうするのよ」


「どうもしないよ。見られたって。それより、建物に入ったら、キスできなくなる……」