「やばい、ちょっと待って。車、移動するから」
意外なことに、頭をぶるっと振って、まるで照れてるみたいに言う彼。
「うん」
彼は、車のほとんど止まってない駐車場に車を止めると、キスの続きをした。
「よく、顔を見せて。俺の腕の中にいるのって、本当にあの葉子さん?」
「なに、それ。どういう意味よ」
「ずっと、相手にされてないと思ったから。俺。あなたに本当にキスしてるんだ?もっとよく顔を見せて」
そう言って、まじまじと顔を見ようとする彼。
「ねえ、お願い。会社を出たらいくらでもキスしていいから。ここでは止めて」
「そんな、お預けだなんて提案、無理。それに、何時間も、この唇に何もしないなんて無理……キスだけじゃとても足りない」
「うん……でも」
「本当にいいの?この体も、心も、全部俺のだよ」
「わかったから……」
シートベルトを外し、彼の体を一度だけギュッと抱きしめて、車から外に出る。
荻野君は、運転席から回って来て、私がドアを閉めるのを待ちきれないみたいに、後ろから抱きしめた。
「俺が、夢の中でこうすると、あなた、いつも俺に肘鉄食らわせるんだ」
「そんなことしないって」
両方の手が、ふわっと私の体を包んだ。
首筋に彼の唇がそっと触れる。
「荻野君、お願い。工場のオフィスから見えるって」
「見られてもいいよ。こんなことで、会社を首になるなら、俺、こうしている方を選ぶ」
「それは、困るでしょう。一緒に働けなくなるもの」
「ん……そっか。それは嫌だな。じゃあ我慢する。だけど、これも、こっちも。みんな俺のだ。今からずっと、他の男には触れさせない」
「わかった。いい子だから、離して。もう行かなきゃ」


