数時間のドライブの後、工場の敷地が見えて来た。
長閑な田園風景で、田んぼの他民家がぽつんと立ってるだけの一本道が続いてる。
とっさのことで、私は全然気が付かなかったのだけれど、
「危なっ!」
っていう、珍しく荻野君の緊迫した声に驚いた。
「えっ!」
猫か何かの小動物が、目の前を横切った。
車の前を、小さな影みたいなのが横切ったのは、私にも見えた。
彼は、急ブレーキをかけ、私の体を支えるために左の腕を伸ばしてくれた。
「ごめん」
彼の腕が、私の体を前に出ないように支えてくれたのだけれど、腕の位置がちょうど胸の高さに当たった。
車を止めた彼は、ほっとしたのも束の間、さっと腕を引っ込めた。
「ん?」
「わざとじゃないのは、信じてくれる?」
「ん……分かってる。そんなの」
「あの……怒ってないってことは……いいってことなのかな」
「いいっていうか……もっと、触れて欲しいくらい」
彼は、ハンドルにかぶさるようにして呟いた。
「嘘だろ……」
荻野君は、シートベルトを外して私の方に体を寄せて来た。
顔がくっつきそう。
私の言葉を信じていないのか、半分、疑いの目で見つめている。
「ちょっと、荻野君、待ってって。ここ道路でしょう?」
「もう、工場内の敷地内に入ってる。邪魔なら、クラクション鳴らされるから大丈夫」
柔らかな彼の唇の感覚。
肩の上に置かれた大きな手。
触れるようなキスから、お互いを求めあうようなキス。


