春先にしては、暖かな陽気になった。
車の中まで柔らかな日が差している。
「確かに、工場だけじゃもったいないな。ドライブにでも出かけたい気分だなあ……
見学なんかさっさと切り上げて、どこかに行くか。桜はまだ早いかな」
赤信号で停止中、窓の外を見ながら彼が言う。
それ、本気で言ってるんですか?
冗談とも、本気ともとれる言い方に、私はそうねとあいまいに答える。
行く気満々で、「はい、行きます!」なんて答えて、
荻野君に「冗談でしょう」なんて言われたら目も当てられないもの。
カーブを曲がった時に、何気なく聞かれた。
「明日は?どこに行くの?誰かとドライブなら止めておくけど」
「明日は、ドライブじゃないと思うけど。多分」
荻野君の方が、返事を待ちきれずに言う。
「多分ね。そうか」そのまま黙ってしまった。
行きたいとこがあるなら、行ってもいいよ、と言いかけたんだけど……
なぜか荻野君は、気が変わったのか、ドライブの話はそれっきりになり、立ち消えになった。
濃い色のジャケットに、ラフなズボン。スーツの時とは違って見える。
こうしてみると、普段より若く見える。
こっちの方が、荻野君らしいのかな。
彼は、まだ20代なのに、自分は30を過ぎている。
この差は大きいなと思う。


