二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

なんて言うんだ?こういう時。

演劇なんてやったことないし。

ああ、もう。

何でもいいや。

「追いかけてきちゃった。帰りましょう?誠さん」

だいぶ棒読みだ。

白々しい。もう素人丸出し。

彼女の方は、うつむいたままじっと下を見つめている。

男の子の方は、驚いて母親と高岡さんを交互に見ている。

「ええっ、どうしたの?誠、帰っちゃうの?」

男の子は、高岡さんに向かって言う。

「ごめんな。あの人と話してくる」
高岡さんが、男の子に向かって言う。


「誠、今日は、夜までずっと一緒じゃなかったの?」
意味が分からないって顔で、大人たちを見ている。

彼女は、息子を抱き寄せようと腕を引っ張ったけど、拒絶された。

「茂樹、高岡さん用事があるのよ。いいじゃない、今日はママと二人で遊びましょう?」
何だか、雲行きが怪しくなってきた。



「嘘つき!」


茂樹君が怒りに真っ赤になった顔で、高岡さんに向かっていく。

私は、高岡さんに、しっかりしろと目で合図する。



「結局、そんなもんなんだろう?俺なんかいてもいなくても同じ」

んん?

高岡さん、開き直ってる気がするけど。

「彼女、迎えに来たんでしょう?行っていいわよ」
彼女が高岡さんに向かって言う。

「行っていいって、何だよ。俺なんかどうでもいいってことか」
高岡さん、やっぱりってそうだった、みたいなジェスチャーをして項垂れちゃった。

おい、こら。

ちょっと、何やってんのよ!

もう、あんたが落ち込んだら元もこうもないのに。

何で自分のことしか考えてないんだ?

ダメだと思った時。



「誠のバカ!!誠なんて、あいつと一緒じゃないか!!どっか行っちゃえ!」

「茂樹!」

彼は、茂樹君がこぶしで叩くのをよけずに受けとめている。

「誠だって、パパと一緒で、ママと違う女の人がいいんじゃないか。最低野郎!」
とうとう、茂樹君がブチ切れて高岡さんに食ってかかった。