二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

移動中の新幹線の中、日程をもう一度確認する。

荻野君の体に負担のないように気を付けたつもりだ。

先に工場の見学をして、工場の担当者と会食。

昼食も、量とメニューを考えれば大丈夫だし。

「まだ、そんなに確認することがあるの?」
荻野君がのぞき込むように見て来る。

「一応ね。出張は久しぶりだから」

「森沢さんがまとめてくれたから、現地を確認するだけでいいよ」

「はい」

「楽しみにしてる」彼の手が私の手を捕える。

「疲れたでしょう?もたれていいから」

「年寄り扱いするなって。でも、こうして君にもたれるのはいいな」
彼は、私の肩に頭をのせてそのまま眠ってしまった。新大阪駅についた。

荷物を半分持とうかという私の提案を無視して、荻野君は、地図を見ながら地下鉄の駅に向かう。

ホテルに荷物を預けて、軽く朝食をとる。

食欲はあるみたい。
本当に、私は彼の母親だ。

彼にそう言われるのも無理はない。

「あんまり見てると、本当にお母さんって言われそうね」

彼は、キョトンとして私を見る。
「どうして。もっと見ててよ。俺、君に見られるのは好きだよ」
そういうと、すごく嬉しそうにくしゃっとした顔で笑ってくれた。

「えっと、朝からそんな恥ずかしいこと言わないの」

心を射貫かれたみたい。
そんな顔されると、朝からどうにかなりそう。

「うん、うちの母もよくそんなふうに口うるさく言ってたな」

母ですって!!
そんなこと思い出して笑ってたの?

もう、人の気も知らないで。

「ちょっと待って、今のはどう考えても意味が違うでしょ?
私は、あなたのお母さんじゃなくて……」

「でも、見てたよ。あったかい目で。俺が何する気なのかなとか。今度は何をやらかすのかなとか。思えば、気にしてほしくていたずらしてたんだな。俺。叱って欲しくて」

「ガキっぽいのは変わってないのね」

「ああ。そうだよ。でも、そうやって、一番、愛してくれてたのも変わらない」