「ちょっと待って。どうしてそこまで自信なくしてるの?」
「どうしてって」
「考えても見てよ。高岡さんがいいなら、お見合いしてすぐ結婚してるって」
「今だって、遅くないんじゃないか?だから、婚約したまま別れないんだろう?」
私ったら、バカだ。
彼のこと安心させたいのに。
煽ってどうするのよ。
「荻野君、なに言ってるの?そんなわけないでしょう?」
そうじゃなくて。
言わなきゃ。
婚約したのって、結婚したいからじゃないって。
「そんなわけがない?誤魔化すなよ。どうだって言いたいの?
そんなこと、考えてみればわかる。
何もかも、彼の方が上じゃないか。
社会的な地位も、収入も、包容力も。彼の方がずっと優れてる」
「荻野君?」
「君は、そんなやつと婚約を解消するつもりなの?本当に、そんなやつと別れて、俺んとこに来るつもりなの?」
「高岡さん、私と結婚したいわけじゃないよ。私のことが好きだから婚約したんじゃないの」
「どういうことだよ」
ようやく私の顔を見てくれた。
「お互いに好きな人と結婚出来たら、付き合っている振りは止めるっていうことになってたの」
「結婚するつもりじゃなかったって?なに?カモフラージュってこと?」
「ええ」
「どうして高岡さんがそんなこと言いだしたんだ?」
私は、話していいのかしばらく考えてから言う。
「彼にはずっと思ってる人がいるの」
「思ってる人だって?好きな人がいるのに、君と婚約したの?どういうことだよ。意味わかんねえよ」
意味わかんないって……
荻野君の行動も、分かりにくかったけど。
「その時は、私もあなたとこうなるって思ってなかったから。
私、いつかはあなたの事あきらめて、他の誰かと一緒にならなきゃいけないって、そう思ってたから。
親が、私の為に持ってくるお見合いの話を無視できなかった。
けれど、それを断るのも難しくって。
高岡さんと二人で、付き合う振りをすることにしようって話し合ったの。
私たち、本当に困ってしまって。高岡さんも同じような立場だったから」