「結婚、完全になくなったわけじゃないのか?」
とうとう彼が、不安を口にした。

安心させなきゃ。
心配しないでって言わなきゃ。

強張った荻野君の顔を見ると、余計に焦ってしまう。

呪文のように唱えたのに、こういう時に限って上手くいかない。
かえって逆効果になってしまう。

落ち着かなきゃ。
ちゃんとわかってくれる。

「荻野君、どうしたの?そんな怖い顔して。結婚は最初からないって言ってるじゃないの」

私の言葉を聞いても、信用できないっていう、彼の顔。
反論することなら、100もあるって言いそうな口もと。

「それは、君の気持ちだろう?高岡さんや周りの人は?どうなんだ?高岡さんの方がふさわしいって思ってるんじゃないのか?」

「まさか、そんな」

「だって、そうじゃないか。君と同じ部署になって、俺、君にまったくいいところなんて見せてない。
ぶざまでかっこ悪くって。
それなのに、あの人はどう?
大人で、君のことさりげなくフォローして、有能で、俺何一つ勝てる気がしない」