二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~


私の言い方が気に入らなかったのか、彼が身を乗り出してきた。

「それ、ひどいだろう?やっぱり、たいしたことないって思われてるのか?俺」


「違うって。本当に立派になってるって……」
議論して、熱くなるとだんだん近づいて、お互いの顔が触れあいそうになる。

そうならないように、私は少し下がる。
「それは、どうも、ありがとう。君、笑ってるし、疑わしいけどな」


「いいじゃないの。他の女の子たちからは、熱いまなざしで見られてるんだから」

それはどうかなと言って、彼は言葉をいったん切った。


そして、唐突に言った。


「森沢?」


「はい」


「しばらく、俺と組むことにしたから」


「しばらくって……ん?」

森沢?何、今の。

呼び捨て?

耳慣れない言葉を聞いて、キョトンとしてしまった。


もしかして、これから呼び捨てにされるの?
別に、変じゃないけど……

なんだろう、何か企んでる?

急に大きな声で笑い出した。

「そんな顔するなよ。ちょっとやってみたかったんだ。君より上の立場になったら、呼び捨てにしてみたかった。驚いた?」

彼は、私をなだめるつもりなのか、大丈夫か?
と声をかけて来て、トントンと私の肩をたたいた。

「そんなこと考えてたの?」
そんなことに、こだわってたんだと思うとおかしくなった。

「そうだよ。葉子。君は俺の……部下だ」
私は、コツンと彼の額に指を当てた。

「もう、そのくらいにして。やりすぎだってば。そういうの10年早い」

「10年か、そんなに待てないな。冗談は、さておき。楽しみだよ。君ともう一度仕事がしたいと思ってたから」

「んん、それは同意する」