「婚約って言っても、形だけの約束なんだだろう?」

そうだけど。

私はこの人と婚約してるわけじゃなく、形だけだとしても別の人の婚約者だ。

「形だけって言っても、簡単に解消するって訳にはいかないの。高岡さんのご両親に説明しなきゃいけないから」

彼は、信じられないって頭を振る。

「婚約者ていったって、結婚はしないんじゃなかったのか?」

彼は、恋人を自分の陣地に連れ戻そうと、軽く触れるようなキスで反撃してくる。

「最初からそのつもりはなかったけど、周りはそうみていないもの」

「そんなもの、続けている意味ないだろう?」

「そうだけど……」

一度始めたら、やめるっていうのは勇気がいるのだ。

そして、勇気だけでは、何もできないこともたくさんあるのだ。