「葉子?」
彼がすることを、私は心地よい金縛りにあったみたいに、何もできず彼がすることを受け入れた。
「ん?」
一応、抵抗は試みるものの。
葉子さんに甘えたい。
彼の体を引きはがすために伸ばした腕で、何もできずに、なし崩しに彼の体を抱きしめている。
妨げになるものは、何もないはずだけれども。
そうできない、引っ掛かりが残っている。
彼が、思い出したように、唐突に言う。
「婚約は、いつ解消するの?」
「いつ?」
「んん……」
抵抗するのはとっくにあきらめてる。
彼の指先は、自由に遠慮なく私の体の上をさまよっている。
質問するのか、指先でとどめを刺そうとするのか、どっちかにしてもらえないと答えられない。
「高岡さんとは、話をしたんだろう?」
「ええ」
冷や水を浴びせられたみたいに、体が高岡さんの名前に反応する。
「それなら、もう、そのことについて話し合ったんだろう?」
「そうね」
うわの空で答えてしまうのは、私のせいだけじゃないっていうのに。
荻野君、そうやって、責め立てるような目で見るのは止めて欲しいんだけど。
私の気持ちが揺れているから、そういう曖昧な返事になると受け取るのは本意じゃない。
違うのに。
だから、本当に止めて欲しいのだけれど。