二人の彼~年下の彼と見合い相手の彼 ~

部屋の中の片づけは、彼にしなくていいと却下された。

何もすることがなく、じいっと待つこと一時間。

置物のようにじっとしてるのも限界だ。

彼の方も、そろそろ疲れて来ただろう。

じっとしていると言っても、彼がこっちに背中を向けてるから、彼の広い背中とか、サラッとした髪の毛とか、時々ちらっと見えるきれいな長い指とか。

彼の後姿が見放題で、決して退屈していたわけじゃないけれど。

「荻野君、ちょっと休憩しようか?」

もう、一時間以上画面を見て集中してる。

「何か飲む?それとも、何か食べられる?」


貧血も心配だし、体を休めないとと思ってたのに、私の方が時間のたつのも忘れていた。


「ああ、そうだな」腕を伸ばしてあくびをする。

「お茶入れるよ」

「コーヒーがいいな」

「お茶ね?」
カタカタっていうキーを打つ音が止まった。

「わかった。先生」
振り向いて、じゃあ聞くなよって顔で言う。


「荻野君?」

腕組みをして言う。
「荻野君っていつまでそう呼ぶの?」

「えっと……呼ばない方がいい?」


「俺との距離を置きたいなら、どうぞ」

「距離を置きたいわけじゃ、ないんですけど」

「本当に?じゃあ、呼んでよ」

「ああ、でも。気を付けないと、仕事中なんかにに、うっかり伸二って名前で呼んでしまうかもしれないから」

「別に、それでもいいじゃないか。どうせ、付き合うんだろう?俺たち。これからは、俺も葉子って呼ぶ」

「えっと、それは会社でも同じでしょうか?」

「当たり前だろう?そんなの」彼がニヤニヤしながら言う。