荻野君と言えば、だいたいが無反応で、ちゃんと話してくれてるのって仕事に関係することだけだ。
帰らないでって、腕をつかまれてお願いされた。
私は、びっくりしてどうしていいのか分からなくなる。
「明日は、何時に来るの?」
荻野君にそう聞かれても、まだ頭の中がぐるぐる回ってる。
「明日じゃなくて、月曜日の仕事帰りに寄るね」
適当なこと言わないように気を付ける。
「何時でもいいよ。彼にあった後でも」
ええっ?
何その遠慮の仕方って。
「荻野君……」
「俺、葉子さんがいないと退屈で死にそうなんだ。他にも、持ってきてもらいたいものもあるし明日着てよ」
彼は、私に病院に来る用事を頼んで、我がままを言ってるみたいに引き留めた。
「予定があるからダメだって」私はそう言って断った。
「彼のとこ行くんだ?」
「話をしなきゃいけないの」
何を気にしてたのか、ようやくわかった。
それなら、対処方法がある。
「明日じゃなくてもいいだろう?」
「でも、約束したから」
私は、荻野君の不安を少しでも減らしてあげようと、彼の背中に腕を回す。
じわじわとぬくもりが伝わって彼の気持ちも落ち着いてくる。
『一度死んだと思ったから』
その言葉通り、荻野君は人が変わったように思ったことを言うようになった。
思ったことを言うようにになった。
それは、いいことだからと思う。
私は、割と人に気持ちを聞く方だった。
『どうする?』とか
『何したい?』ってマメに聞く方だったと思う。
荻野君に聞いても、
『俺のことは、気にしなくていいって言う』
たいていは、そう言って気持ちを表すことなんてなかった。
そばにいて欲しい、そんな些細なことが彼の口からきかれるなんて。
予想以上の影響に、私の方が戸惑っている。
そんなふうに言われることに慣れていないからだ。


