話も終わって、会議室を出ようと思った時、荻野君の視線がまっすぐ自分に向かってるのに気が付いた。
どうかした?
彼に向かって小首をかしげ、慣れたしぐさをする。
「あのさ、その、荻野君って呼び方なんだけど……」
「ん?」
「そう呼ぶのは、二人だけの時にしてくれないかな」
さっと、顔つきが変わった。
さっきまで、冗談言って笑ってた顔つきではなく、真剣な顔になった。
呼び方?
「ええっと、ああ、そっか。ごめん。気が付かなくて」
私は、彼の部下なのだ。
自分の上司である課長を、君付けで呼んだら他の人の前、まずいことだ。
長い付き合いだから、上司だってこと忘れてしまってた。
それと、自分が彼の部下だということも。
「親しげに呼ばれるって、個人的には嬉しいけどな。でも、ここでは、他のメンバーに示しがつかない」
「えっと、そっか、どうしようか。ごめん。荻野課長?これでいい?」
彼は、私の背中に腕を回して来た。
「荻野課長なんてつまんないな。やっぱり、伸二って名前で呼んでくれる?」
もう、こういう時にふざけてくる。
「そんなこと言ってると、本気にするよ?」
私だって、いつまでもドギマギされっぱなしじゃない。


