「だったら……」

「私、ここに居られないんです」

「お仕事が忙しいなら、私たちも協力して……」

「いいえ。私はここに居ちゃいけないんです。私、婚約者がいるんです。だから、荻野君の気持ちに応えられません」

「どういうこと?」

「彼に、もっと大切な人がいるって言われたとき、お見合いしたんです。もう、その話が進んでいて、今になって止めますなんて言えません」

「ちょっと待って。あの子は知ってるの?」

「はい。倒れる前に伝えました」

「まあ、それでこんなことに……」


急に涙が出て来た。

「急にごめんなさい。私これで失礼します」
私のせいだって言われたみたいで、急に申し訳なくなった。

それなのに、可哀想にと声をかけてくれて、
「まあ、そんな顔で戻ったら心配するわ」
と言いながら、おばさんはハンカチを渡してくれた。

「すみません」

「辛かったでしょう?」

「荻野君に比べれば、たいしたことありません」