私の表情の変化を見て、荻野君が言う。
「そうだよなあ。君は俺のこと心配するより、婚約者のこと心配しないとな?
彼は、君がここにいること知ってるの?そのことで揉めるのはごめんだよ」
私は、荻野君の顔をポカンと見つめる。
ああ……
そうだった。自分がどういう立場にいるのか忘れてた。
私は婚約者がいるんだった。
そういうこと考えるの忘れてたわ。
荻野君のあんな姿見て、他のこと考える余裕なかった。
おかげで、高岡さんのことすっかり忘れてた。
彼の方も、私が高岡さんと結婚を意識するような間柄じゃないの気が付いてる。
そういう、私の本心を見抜かれたんだろうか?
今のところ、気が付いてるっていうそぶりも見せないけど。
無理しないようにって、私の体のこと気遣ってくれる言葉しかかけてこない。
確かに、婚約者放っておいて、上司の世話にかかりきりというのは変だ。
「わかった。じゃあ帰らせてもらおうかな。まだ、必要なものがあるから、メモしとくね。彩香さん来たらそれ渡して揃えてもらって」
「彩香が来たらって、なんだよ」
「ん、私が出る幕じゃない、荻野君と彩香さんの問題だもんね」
「彩香のことはどうでもいいだろう?」
今度は、怒りだした。
「ちょっと待って、そんなに向きになったらの体に悪いでしょ?」
「だから、なにを、とんちんかんなこと言ってるんだよ!俺が気にしてるのはそっちじゃないだろう?」余計に怒らせたみたいだ。
「どこが、とんちんかんなのよ?お願い。もう帰るから怒ったりしないで」
「森沢……違うって」
彼はちょっと、口元を歪めて首を振る。


