彼は、笑いながら言う。
「それはないよ。彼女には鍵、渡してないから」
「渡してないの?」
ああ、そうだよと言ってあっさり頷いた。
「俺は彩香のこと、妹みたいに思ってる。だから大切なんだ。
何かあったら、自分の命にかえても助けると思う。
でも、その……森沢さんを前にしたときの気持ちとは違う」
彼は、照れて言う。
「私と違うって?」
「だから、君にはキスしたいと思うけど、それ以外の他の子にそうしたいと思えない」
ちょっと待って。ねえ、それ本気で言ってるの?
今頃、どうしてそんなこと言うの?
私は、彼に近づいていく。
表情の細かなところにまで確かめたくて、顔を近づけた。
「彩香ちゃん、キスもしてもらえないの?本気で付き合う気がないなんて、彼納得しないでしょ?かわいそう。いくら頑張っても受け入れられないんなんて」
荻野君は私の体を、息がかかるほどの位置まで引き寄せる。
「言っただろ?俺、君以外は興味ないって」
「そう思うのなら、受け入れられないなら、彼女にはっきり断るべきよ」
「ん、そうするつもり。君の言う通りにする」なぜか彼は笑ってる。
「彼女に連絡は?知らせてあげなきゃいけないでしょう?」
「その前に。君に聞きたいことがある」
もう一度向き合って、お互いの目を見るように顔を近づける。
「何?」
「君の方こそ、どうなってるの?彼のこと放っておいて一晩中、俺のそばにいていいの?」
彼の顔が目の前でいっぱいになって、軽く唇が触れた。
確かめるように、キスされる。


