ようやく彼の顔が見られた。
にやついて笑ってる。
やられた。やっぱり確信犯だ。
ふざけて私のこと、からかおうとしてるんだ。
彼は、こうやって、突然びっくりするようなことして驚かせる。
前は、こういう彼の、小さなイタズラによく引っかかった。
小さな男の子みたいなものだ。
相手が、目を大きく見開いたり、はっと息をのむのが面白いのだ。
こんなことに、何の意味もない。
何でこんなことするのよ。
って息巻いたところで、彼の答えは分かってる。
コミュニュケーションを取るための手段だったっていうだろう。
この男の術中にはまってはいけない。
この人はこうして、周りの人間を引き付けておくのだ。
彼に少しでも気を許すと、必要以上にこき使われて、馬車馬のごとく働かされることになる。
そんなことわかってるけど。
こんなふうにされると、心臓が跳ね上がりそうになる。
私は、無視して答える。
手を捕えられて、何度もその大きな手で、撫でられ、握られてどうにかなりそうだけど。
「不思議だなって思って。こうして二人でいるの」
いちいち、彼のやる事のために、驚いてたらやってられない。
そう言って、何でもないように彼から離れる。
「そうだな。でも、すぐに慣れるさ」


