「自分の気持ちは違っても?」
彼は頷いた。
「自分が今、こうして、まっとうに生きていられるのも、あの家族に迎えられたからなんだ。
だから、俺、自分の気持ちなんて二の次でいいと思ってた。
強くそう思えば、封じ込めると思って。そうするしか考え付かなかった。
俺か、彩香を悲しませたら、育ててくれた親をがっかりさせるって思って……」
こんなふうになっても、彼はまだ育ててくれた人たちの事を忘れていないんだろうな。
「そんなこと無理よ。
一時だけなら、できるかも知れないど。
一生そんなふうに生きてくなんて」
道理でこの人は、忍耐強いわけだ。
私は、彼のこういうところが好きなのだ。
「ん、そうみたいだね。本当にきつかったよ。
君がそばにいて、毎日会えると思てた時は、大丈夫何とかなると思ってた。
でも、君が、俺から離れていって、他の人のものになるって言われて。
どうしていいのか分からなくなった」
「しゃべると体に障るよ。
もう、少し眠る?」
「ん、そうする。だけど、今日は帰らないで。ずっ
と、俺のそばにいてくれる?」
「ええ」
「話は、後にしましょう。少し休まないと」


