「もう、なに言ってるの。
荻野君、どうしてよ?なんてこと言ってるのよ?
あなたは、私のことが好きだって言っておいて、彩香さんと暮らそうとしたのよ?
そうしたのは、あの子が好きだったからじゃないの?
意味が分からない。あなたって、
どうして、そんなふうになっちゃうのよ」
何もかも、いい加減な人ならわかる。
でも、荻野君はそうじゃない。
だから、荻野君がそんな態度をとるって意味が分からなかった。
「森沢さん、ちゃんと話すから聞いて」
彼は少し考えながら、言った。
「森沢さんには、詳しく話してないかもしれないけど、俺、九歳の時に家族を亡くしたんだ」
「ええ、そのことは、少し聞いたことある」
普段、彼はそのことを気にしてる様子はない。
「うん」
彼はそう言ってまた、一呼吸置いた。
「こうすることは、ずっと前から決めてたんだ。
俺、両親と妹を急になくして、九歳の時、彼女の両親に引き取られたんだ。
親戚でもない、引き取る理由のない子供を、うちの両親と親しかったっていうだけで、育ててくれたんだ。
それだけじゃない。
俺のこと、実の子供以上にかわいがってくれて、親以上に愛情を注いでくれた。
だから、俺には彼らに対して恩がある。
その恩を返すには、俺は一生彩香のそばにいて、彩香の望みに、こたえることだと思っていた」


