「何かあったの?」
冷静に言ったつもりだけど、声が上ずってた気がした。
私の心の動きなんかとっくに分かってるんだろうけど。
私からは見えないけど、荻野君、さっきから私の顔、面白がってじっと見てる。
耳元で笑う声が聞こえる。
顔が、赤いのがバレたのかもしれない。
「葉子さん」
「ん?」
「そこ、字、間違ってる」
誰のせいだと思ってるの。
「ああっ、もう、本当だ。ねえ、人が来たらまずいよ。ちゃんと起きて」
「だから大丈夫だって。一時間は来ないよ。まだここ会議中だから」
だから、耳元で、しゃべるのは止めてって。
すでに、顔が赤くなってると思う。
服を着てるし、ここは会議室だし。
腕にぎゅーっと力を入れる。
抱きしめられるみたいになる。
「ちょっと待って……」
それは、いくら何でもやりすぎだって。
自分が、どんな顔してるか、確かめるわけにいかないけど。
「だって、せっかく二人きりになれたのに」
「もう、ふざけないで。いい加減にして」
ようやく、彼の固い胸を手で思い切り押した。


