眠っている彼の頬に手を当てる。部屋には、誰もいない。
私と彼だけ。機械の音だけがしている。
彼の手を握って、ぬくもりを感じられることに、心の底からほっとする。
今日は、病室の中で過ごしたい。
誰にも邪魔されず、私だけのものにしたい。
ものすごく、強い思いが湧き上がってくる。
他の人を思ってこういう気持ちに、なったことはない。
誰にも渡したくない。
死に対しても、他の誰かに対しても。
日も暮れかけて来て、外も暗くなってきた。
不意にノックの音がして、返事をしてドアを開けた。
「はい」
ドアを開けたら母が立っていた。
「母さん?」
「どうしたの!その格好」母は、私を見ると声をあげた。
高岡さんに、ひどい格好だって言われてたのを忘れてた。
「私は大丈夫なの。でも、この人が……」
「さっき話を聞いてきたの。大丈夫って、お医者様言ってたわ。よく頑張ったわね。彼は、あなたのお父さんと違うって。大丈夫よ。はら、早く着替えてきなさい」
母に言われた通り、血で汚れてしまったスーツを脱いだ。
匂いが染みついている。
たとえ汚れが落ちたとしても、このスーツはもう着ることが出来ない。


