「ごめんなさい。荻野課長ずっと具合が悪くて。少し席を外します」
何とか支えながら、彼をその場から連れ出した。
荻野君、何も言わずに私に従ってくれた。
「お手洗いへ……頼む」
痛みにこらえながら、ようやく言う。
「大丈夫か?」
高岡さんが後から付いてきた。
「はい。少し落ち着いたら、病院へ連れて行きます」
「ああ、そうした方がいい。悪いのは胃か?」
「ええ、多分」
荻野君は倒れ込むように、お手洗いに入って行った。
しばらくして、ひどくせき込んでたと思ったら、咳き込むような苦しそうな声がした。
「すまない。何か拭くものを……」
「どうかしたのか?」
男子トイレだから、高岡さんが先に入って行った。
個室の扉を開けてすぐに、彼が叫んだ。
「葉子さん、早く人を呼んで!」
「高岡さん?」
「血を吐いてる。早く病院に連れて行かなきゃ」
そう言われて、私もとっさに中に入った。
個室の辺りには大量の血と、レバー状の血のかたまりが落ちていた。
彼は、かろうじて壁に寄りかかり、真っ青な顔をして口から血を流していた。
手を差し伸べようと思った瞬間に、洗面所の床に崩れ落ちた。


