倒れ込んで、寄りかかったまま起き上がってこない。
「いつまでしてるの?」
つい、習慣で普通に聞いてしまう私。
「くたくたなんだ。俺、もう壊れそう。葉子さん慰めて」
彼の長い指がさっと、二の腕をなぞって、私の手の甲を撫でてる。
ひっ……
二の腕を軽くつままれて、危うく声に出すところだった。
「ちょっと、何してるの?」
きつく言ったのに、彼は聞こうとしない。
手を引っ込めようとしたら、逆に捕まった。
いつの間にか、彼の広くて固い胸に抱かれてぞくっとする。
頼むから、止めて。
心音が皮膚から伝わっていきそう。
「誰か来たらどうするの?」
「鍵がかかってるから、誰も来ないよ」
あまりのことに、目をぱちぱち瞬きさせるのがやっとだった。
どういうつもり?
止めてって、はねのけたいけど。
本当に、仕事からのプレッシャーで私に頼って来てるんだったら、どうしよう。
本当に、悩んでたら?
大変なのは、よくわかるし。
はねつけるのは、よくないかな。
「どうかしたの?」
なるべく優しく尋ねる。
彼が話しやすいように。
そう聞くと、彼が、顔を上げて私の顔をのぞき込む。
「なに。その色気のない言い方」
さらに顔を近づけてくる。
色気のない?
色気を出して欲しかったってこと?
ふざけてるのね?
もう。
こういう時は、無視するのがいい。
いちいち反応せず、放っておけばそのうちあきらめる。
でも、前と違って無視するのは難しい。
22歳の男の子のすることは、軽くあしらえたけど。
完全に男らしくなった彼のことを無視するのは難しい。
整ったきれいな顔が、息がかかるくらい、近くにいるのにそれに応えられないなんて拷問と同じだから。


