「私どもの方も、ある程度の数は対応できるのですが、日本中に店舗の全国展開となると、生産が追い付かなくなる可能性があります」加藤さんが説明する。

「丸菱化学工業の設備では、すでに培養タンクでの大量生産が可能です。需要があれば、品質、生産量ともにコンピュータで制御できます」高岡さんが、私と荻野君のほうをチラッと見て微笑む。

「製品によっては、既存のもので我慢していくことはあるかと思いますが、ここは共同開発ということで、話を進めていきたいと思います」高岡さんが閉めくくった。

話し合いは、スムーズに進んだ。
丸菱の工場のほうも余裕があるみたいで、すぐに対応してくれる高岡さんにそう教えてもらっていた。


「食事でもいかがですか?」
高岡さんが私たち三人を誘ってくれた。


ついでに、目線で荻野課長を示して、『彼がそうか?』と聞いてきた。
私は、軽く頷くと、少し恥ずかしくなってうつむいた。


高岡さんがゆっくり近づいて来て、荻野課長に握手を求めた。

「高岡と申します。そちらの森沢さんとは、親しくさせていただいています」

「親しく?」
荻野君の顔が、緊張で強張った。

「ええ、プライベートで」
高岡さんが、ありったけの営業スマイルを向けた。


荻野君は、握手を求めた相手が誰なのか、気が付いたみたいだ。